ねじ加工のひとつに、旋盤を使ったねじ切り加工があります。 ねじ切り加工では、タップ加工ではできない外径の大きなねじや特殊ねじなど、円筒ワークの雄ねじ・雌ねじ加工が可能です。 この記事では旋盤によるねじ切り加工の課題と、旋削チップの選び方について解説します。
旋盤によるねじ切り加工で発生する課題には、以下のようなものがあげられます。
旋盤によるねじ切り加工には、専用のねじ切り旋削チップが使われます。 旋削チップの選定は加工効率や工具寿命だけでなく、ねじ精度にも影響を及ぼすため、ねじの規格やワーク材質にあった適切なチップ選定が求められます。
ねじ切り加工では、旋削チップの種類やワーク材質によってバリが出やすい場合があります。 バリはねじの締結不良や機械内部への異物混入の原因となるため、確実に処理する必要があります。
チッピング(刃先の欠け)が発生すると、ねじ精度不良につながります。深く切り込んでいった際に起こりやすく、1回の切り込み量が多くてチップに負担がかかり過ぎたことが原因です。ねじ切りは深く切り込むにつれて、ワークとチップが合わさる面積が大きくなるため、切り込みが少なくてもチップにかかる負担が大きくなります。 ねじ精度はねじゲージなどの測定工具を使って検査しますが、抜き取り検査しか行わない量産加工では注意が必要です。
旋盤によるねじ切り加工の精度改善やバリ発生の防止には、以下のような対策があります。
ねじ切りで使われる代表的な旋削チップには、「フルプロファイル」「仕上げ刃なし」「マルチポイントチップ」の3種類があります。 それぞれの特徴を押さえた、適切なチップ選定が重要です。
フルプロファイル(仕上げ刃付き)は、最も一般的な旋削チップです。 ねじ山の頂点・谷底を含む輪郭全体を加工するため、精度の高いねじ切り加工が可能です。 仕上げ刃なし(V-形状)チップに比べてノーズRが大きいため、少ないパス回数で加工できます。なお、仕上げ刃付きのためバリ取りが不要ですが、ねじピッチに合わせて異なる旋削チップを用意する必要があるため、使用する工具の本数は増えます。
仕上げ刃なし(V形状)は、複数のねじ切り加工で使われる旋削チップです。 柔軟性、ねじ山の角度とコーナーRが同じであれば、ひとつの旋削チップで異なるねじピッチに対応できるため、使用する工具の本数を減らすことができます。 ねじ山の頂点は加工されないため、バリの発生には注意が必要です。また、ピッチ範囲をカバーするにはチップノーズRが小さすぎるため、工具寿命が短くなります。
マルチポイントチップは、フルプロファイルに複数の加工点を持たせた山型の旋削チップです。 パス回数が少なくてすむため、工具寿命が延び生産性が向上するので加工コストが低減します。 3ポイントの旋削チップでは生産性が3倍に上がりますが、刃先の接触面が増え切削抵抗が大きくなるため、仕上げ精度には注意が必要です。 加工終わりに刃先を逃がすためのスペースを確保する必要があります。
ねじ切り加工では、ねじ山の入り口と出口にバリが発生しやすく注意が必要です。 バリを取るためには、以下の1〜3の工程を行うことが有効です。
※ゼロカットとは 一度加工したパスをなぞる加工方法です バリの除去や厳しい公差の仕上げ加工に有効です*
ねじ切りの取り代が大きい場合、ねじ入り口や加工中に掛かる負荷が大きくチッピングの原因となります。 その場合、仕上げ前に55°もしくは60°チップを装着した旋削チップで下加工を行い、取り代を適正に残すことで、チッピングを防止することができます。
小さいノーズR(角の丸み)の頂点・谷底を加工する場合は、同じ角度でノーズRの大きな旋削チップを使い下加工を行うことも有効です。
この記事では旋盤によるねじ切り加工の課題と、旋削チップの選び方について解説しました。 NC旋盤でのねじ切り加工は、ねじ切りサイクルを使うことで比較的簡単に行えますが、バリの発生を防ぎねじ精度を向上させるためには、旋削チップの選定や適切な下加工がカギとなります。