量産加工の6割を占めるといわれる穴加工。なかでもドリルによる穴加工は機械加工の基本であり、穴の精度が最終製品の品質を左右するといっても過言ではありません。
この記事ではドリルによる穴加工で発生する課題と、効率的な加工のために押さえておきたいポイントについて解説します。
ドリルによる穴加工で発生する課題には、以下のようなものがあげられます。
穴加工には「穴位置精度」と「寸法精度」の2つの精度が求められます。 穴位置のズレや寸法不良は部品の組み立てやはめあいに影響するため、単純な穴加工であっても注意が必要です。加工被削面が垂直かどうか確認して、垂直でない場合はセンタリングや座面加工などを行う必要が出てきます。 精度不良の原因には、ドリルの振れや摩耗などがあります。
公差の厳しい穴加工について 精度穴などの公差の厳しい穴加工には、リーマによる仕上げ加工が行われます
ドリルはフライス工具とくらべ折れやすく、マシニングセンタなどによる自動加工ではアラームによる機械停止の原因になるため注意が必要です。 ドリルの折損は次の4種類に分類され、それぞれ原因が異なります。
これら工具折損の要因として、切粉詰まりや振動による過負荷などがあります。
ドリルによる穴加工の精度不良や工具折損の改善には、以下のような対策があります。
前加工でセンタ穴をあけることでドリルの食いつきをよくし、ワーク接触時の振れや位置ズレによる精度不良を防ぎます。 センタ穴は位置ズレの起こりやすい勾配部の穴加工にも有効です。 さらに長いドリルを使い深穴加工をする場合は、ガイド穴とよばれる深めの穴を開けることで加工精度を安定させることができます。
ドリルの振れを最小限に抑えるためには、ツールホルダーの選定が重要です。 要求精度が高い場合には、取付精度や剛性に優れた「焼きばめチャック」や「油圧チャック」などの検討も必要です。
ドリルによる穴加工には「回転数」「送り速度」「送り量」の3つの要素があります。 各ポイントで切削条件を調整することで、精度不良を改善することができます。
ガイド穴にドリルを入る際は、回転数を低速または停止の状態にします。 回転による振れを最小限に抑えることで、ドリルをガイド穴に確実に挿入します。
ガイド穴へ挿入後は、推奨の切削条件まで回転数を上げます。 深穴の場合、油穴付きドリルを使い工具先端からクーラントを吐出させ切粉を排出します。
加工後は再び回転数を低速に戻し、素早く引き抜きます。 ドリルの抜け際は負荷が大きいため、工具折損に注意が必要です。
切削中に折損が起こる主な原因は送り速度、切り屑詰まり、ドリル形状不適、貫通時過負荷の4つに分けられます。これらをふまえて対策例を以下に示します。
穴加工の各工程で、切粉がうまく排出されるような切削パスを選定することが重要です。 深穴加工や小径ドリルでは、ドリルを複数回にわたり送る「ステップ送り」も有効です。
油穴付きのドリルを使い、ドリル先端から高圧クーラントを吐出します。 切削点に確実にクーラントを届けることで、切粉詰まりによる工具折損を防ぎます。
L/D(エルバイディー)とは「穴の深さ」の指標で、L(穴深さ)÷ D(工具径)で算出します。 穴の深さが同じでもドリルの工具径が変わると、加工の難易度も変わってきます。 L/Dが10以上になる場合は「深穴加工」となるため、通常の穴加工に加えドリル種類・切削条件・切粉の排出などを慎重に検討する必要があります。
ワーク接触時に高速回転で金属表面に食いつくと、工具折損のリスクが高まります。 特に深穴加工で使われる突き出しの長いドリルは、振れが大きく注意が必要です。 その場合、剛性の高いドリルで下穴加工を行い、その後深穴加工用のドリルに変更。 下穴加工の底面まで低速回転で入れた後、推奨の切削条件まで回転数を上げ穴加工を進めます。
ドリルは細く・長くなるほど剛性が低くなり、振れが発生しやすくなります。 特に食いつき時の振れは、工具折損の原因や精度不良の低下につながるため注意が必要です。 振れを防ぐためには、センタ穴→下穴→深穴と工程ごとに剛性の高いドリルを使い分けることが重要です。
この記事ではドリルによる穴加工で発生する課題と、押さえておきたいポイントについて解説しました。 穴加工は機械加工の最終工程で行われることも多く、失敗は許されません。 そのため穴の要求精度や直径・深さに応じた、ドリルの選定が重要です。