一本でさまざまなフライス加工ができるエンドミル。 ワークの平面だけでなく側面・段差・溝など、工具側面の「外周刃」と底面の「底刃」を使ってワークを効率よく削る、定番工具です。 この記事ではエンドミルを使ったフライス加工で発生する課題と、効率的な加工のために押さえておきたいポイントについて解説します。
エンドミルによるフライス加工には、以下のような課題があります。
ワークやエンドミルの振動でビビりが発生し、加工精度が低下することがあります。 振動は主軸・ツールホルダー・治具・切粉・切削条件など、さまざまな要因が重なり発生します。また、機械の剛性不足や老朽化でビビりが発生することもあります。振動がどこから発生しているかを、音や触ったりして確かめる必要があります。
エンドミルは使用頻度が高いため、生産性の高いNC工作機械では工具寿命が課題となります。 寿命はコーティングの有無や再研磨回数にもよりますが、工具の摩耗が早い場合には、スローアウェイ(チップ交換式)のエンドミルも検討されます。スローアウェイエンドミルとはインサートと呼ばれる切れ刃をネジや押さえ金で固定する、シャンクと刃先が別体として作られたものです。
側面フライス加工は、金属の側面や外周を効率よく削る加工方法です。 加工にはエンドミル側面の「外周刃」を使うのが一般的です。 エンドミルを使った側面フライス加工には、以下のような課題があります。
ワークと接触する切れ刃が長い場合、切削抵抗によってエンドミルがワークから倒れるように逃げてしまい加工不良になることがあります。
長い切れ刃による側面フライス加工は切削抵抗が大きく、加工面が荒くなることがあります。
フライス加工のビビり抑制や工具寿命の改善には、以下のような対策があります。
「切込み量」「送り速度」などの切削条件を調整し、切削抵抗を小さくすることでビビりの発生を抑えます。 一般的に切込み量と送り速度が大きくなるほどビビりが発生しやすく、加工面が荒くなります。 切削条件はワーク材質や使用工具によっても大きく異なるため、バランスが重要です。
エンドミルの突き出しを短くすることで、工具の振れやたわみによるビビりの発生を抑えます。 溝・ポケットなど加工形状によっては、ツールホルダーとワークが干渉するため注意が必要です。
長い工具を使用せざる得ない場合は、切れ刃の角度が緩やかになるようにしたり、干渉の少ない程度の太いホルダー、アバーを使用したりすると良いです。
ワークに当たる刃数を少なくすることで、切削抵抗を小さくしビビりの発生を抑えます。 ワーク形状によっては「多段加工」などで、加工を複数回に分けることも有効です。刃数の多い工具を使用せざる得ない場合は切り込み、回転数の調整でビビりの抑制を期待できます。
剛性と保持力の高いツールホルダを使用することで、エンドミルのビビりの発生を抑えます。 特に金型加工などの重切削では、主軸やシャンク周りの剛性もポイントになります。
加工時の正しいカッターパスと切りくず生成は、フライス加工において安定した刃先と長い工具寿命を保証するための重要な要素です。
曲線を描きながらワークに切り込む(ロールインアプローチ)ことで、切削開始時の負荷を最小限に抑え、工具の摩耗を抑えます。
加工中はエンドミルが常にワークに接するようにして、切り込み回数を減らします。 工具への負荷が減ることで、刃先の寿命改善につながります。
エンドミルによる側面フライス加工では、以下のような対策があります。
1刃あたりの送り量を下げ、切り込み深さを小さくすることで切削抵抗を減らし、倒れを防ぎます。
超硬などの剛性の高いエンドミルを使用することで切削抵抗を減らし、倒れを防ぎます。
加工面の改善にはさまざまなアプローチがあります。 いかに切削抵抗を減らすかが、加工面改善のポイントです。
切削代を一定にすることで、切削抵抗が安定し加工面が改善します。
突き出しの短い工具を使用することで、ビビりの発生を抑制し加工面が改善します。
また、切削抵抗は3方向の分力として考えることができます。
分力の理解から、切削条件の見直しを図ることも、状況に応じて検討しましょう。
エンドミルを使ったフライス加工では、切削箇所に合わせてエンドミルを使い分けることも重要です。 下記の表が、よく使われるエンドミルの形状ごとの特徴と用途です。
種類刃の形状特徴と用途フラットエンドミル刃先先端が平坦汎用性が高い、平面・側面・段差・溝加工などラジアスエンドミル刃先先端に丸み強度が高い、曲面加工・金型加工などボールエンドミル刃先先端が球状切削抵抗が少ない、金型加工・5軸加工などラフィングエンドミル刃先側面に凹凸切粉の排出性が良い、荒加工など
エンドミルは、「一枚刃」「二枚刃」「多刃」など、その刃数によって分類されます。 刃数が多いほど剛性が上がり加工精度は上がりますが、切粉の排出が悪くなるため注意が必要です。
この記事ではエンドミルを使ったフライス加工で発生する課題と、押さえておきたいポイントについて解説しました。
万能工具のエンドミルですが、荒加工から仕上げまで加工の特性に合わせていくつものエンドミルを使い分けることが、精度向上のカギとなります。