切削加工において、避けて通ることができない切粉(きりこ)の問題。切粉はうまく排出できないと加工不良やチョコ停につながるため、適切な対策が求められます。
この記事では切削加工における切粉のトラブルと、その対策について解説します。
切粉は切削加工で発生する、金属の「切りくず」です。パラパラとした粉状の切粉から長くつながった螺旋状の切粉まで、その形状はさまざまあります。
切粉の状態は加工方法やワーク材質によっても変化するため、「切粉を見ると加工の良し悪しがわかる」といっても過言ではありません。一般的な旋削加工では「流れ形」の切粉が理想的とされています。
下記の表が、切粉の形状ごとに想定される、加工の状態や特徴です。
また、形だけではなく色からも加工の良し悪しを判断することも可能です。
加工時に被切削物が回転した状態で刃物を押し当てて削る為、圧力や摩擦によって高熱(切削熱)が生じて発生する酸化被膜が光の乱反射を起こします。この時の膜の厚みによって色が変化し、一般的に切削熱が高いと暖色、温度が低いと寒色になります。
加えて、形や色の他に長さでも比較することができ、長さは数ミリ〜数センチ程度、巻き数は1~5巻き程度が望ましいとされます。
加工状態推察の材料として、使える切粉ですが、切粉そのものが原因で加工中のトラブルに繋がるようなケースもあります。例えば、以下のような事例があげられます。
切粉が工具や加工中のワークに巻きついてしまい、製品を傷つけてしまうことがあります。
切粉の処理に影響する要素は主に、チップブレーカ、ノーズR、切り込み角、切り込み深さ、送り、切削速度、被削材が挙げられます。具体的には施削加工の際、低送りから始めてチップの安全性と加工面品質を確認してから、送りを上げて切りくず処理を改善します。切り込みはノーズRより大きくすることでチップの径方向へのたわみを最小限にすることができます。
こうした要素を考慮の上、加工中においては、いかに切粉をコントロールするかが重要です。
切粉がうまく排出されないと、チャックやシャンクに切粉を噛み込んでしまうことがあります。 切粉の噛み込みは加工不良やアラームによるチョコ停の原因となるため、確実に排出する必要があります。
内径加工・中ぐり加工などの穴加工では、穴のなかに切粉が溜まりやすいため注意が必要です。 切粉がうまく排出されないと、過負荷によるドリル折損の恐れがあります。
上記のようなケースでは、発生する切粉ができるだけ短くなるように使用工具や各条件などの要素を見直す・工夫すると言った対応を求められます。
トラブルを起こしやすい切粉の発生原因には、以下のようなものがあげられます。
一言に切削条件といっても素材ごとに早くした方が良いもの、遅くした方が良いものなどある為、どのように調整をしていくのかは議論があります。 ですが、加工現場での切削条件調整の際は、主軸の回転数、送り速度、切り込み量ぐらいしか、調整することがないのも事実です。切粉によるトラブルを防ぐためには
これら3つの要素のバランスをとることが重要です。 以下が、上述の3要素それぞれの調整に際して気をつけておきたいポイントです。 切粉の抑制ばかりに意識がいくと、製品の品質に影響が出ることがある為、合わせて注意しておきましょう。
なお、上記で解決できない場合、パスの見直しと工具の見直しの検討が必要になります。
ノーズR(旋削チップの角の丸み)が大きい場合、切削抵抗が大きくなり切粉の排出が悪くなります。 ノーズRの大きさは工具寿命や加工精度にも影響するため、切削条件とあわせて慎重な検討が必要です。
一般的にノーズRが小さい方が、大きなノーズRよりも切りくずをコントロールできるようになります。
切削条件が良くても切粉がうまく排出されない場合、工具の摩耗によりチップブレーカが機能していないことがあります。 工具の交換時期を適切に管理する必要があります。
加工不良の原因となる切粉の排出には、さまざまなアプローチがあります。 切削加工の現場で行われている切粉対策について解説します。
チップブレーカ付きの工具を使い切粉をカール・分断することで、工具やワークへの巻きつきを防止します。 チップブレーカの性能は、切り込み量やワーク材質によっても大きく変わるため、切削条件にあわせた選定が重要です。
切削パスを工夫し切削経路を変更することで、切粉の発生をコントロールすることができます。 切粉の分断には加工中のステップ送り(断続加工)や、ドウェル(NCプログラムの遅延)も有効です。 工作機械によっては、振動を利用した「揺動切削」による切粉分断機能を搭載した機種もあります。
高圧クーラントを噴出し、切粉を洗い流します。 クーラントの供給にはさまざまな方式がありますが、特に深穴などの穴加工ではドリル先端からクーラントを噴出する「センタースルー方式」が有効です。
加工現場での調整機会が比較的多い切削条件である、
の調整による切粉対策に関して、よくある手順は下記となります。1~3を繰り返すイメージで行います。
主軸の回転数や送り速度を大きくすることで、切削速度が上がり、加工硬化度が減少、切削温度も高くなるので理想的な流れ型の切粉に近づけることが期待できますが、刃先に与える負荷も大きく、チッピングしてしまうと切粉がむしれ型やき裂型となってしまいます。
切削速度で切粉の排出が改善しない場合は「切り込み量」を見直し、チップブレーカを機能させ、切粉を分断します。ただ、大きくしてしまうと工具の破損に繋がるため調整の際は注意が必要です。
なお、上記は調整方法の例です。こうした切削条件の調整で解決しない場合は、切削パスや工具選定の再検討を行いましょう。
この記事では、切粉によるトラブルとその対策について解説しました。 切粉の排出は切削加工における大きな課題です。自動化が進んだNC工作機械では、各工程で切粉をいかに排出していくかが生産性向上のカギとなります。