日本の基幹産業であるものづくりを支えるベテランのノウハウ。以前はそれらについてベテラン技術者のもとで作業を見て覚えるのが基本でした。しかし日本の製造業を長年支えてきた団塊の世代が定年を迎え始め、「2020年版ものづくり白書」(経済産業省)では「人手不足」「人材育成・能力開発が進まない」「後継者不足」などが中小企業・大企業を問わず多くの企業の経営課題として挙げられています。そのような問題の解決手段のひとつとして挙げられるのがIoTやAIです。その技能継承・人材育成におけるIoT化のメリットや役割を事例とともに見ていきましょう。
IoTの目的は、詰まるところ“工場のさまざまな装置からデータを取得しそれを経営に生かすこと”です。取得されたデータは装置のサイクルタイム短縮や予知保全などに活用できるだけでなく、これまで見て覚えるしかないとされてきたベテラン社員のさまざまなノウハウを形式知化し、デジタルで再現することにも活用できます。また、AIによってデータを分析し、ベテラン社員の思考まで再現する技術も開発されています。IoTによって工場から取得したデータは機械の稼働状況だけでなく、人間の動きも反映しています。いわば、“見て覚える”のデジタル化がIoTにより可能になったといえるかもしれません。「ものづくり白書」の2019年版には、“技能継承がうまくいっている企業は労働生産性も高い傾向にある”と記載されています。そして、技能継承がうまくいっている企業は“技能を継承していくために必要なツールや指導体制の整備等に取り組む割合が高い”とのこと。IoTやAIを導入し、技術継承に取り組むことは人材育成のみならず生産性向上など企業全体の利益につながります。現在人手不足や後継者問題が急務でない企業も、ぜひ今のうちに取り組むべきでしょう。