産業機械で使われる精度の高い「歯車」の加工方法には、歯車全体を効率よく加工する歯車創成法や、ひとつひとつの歯を加工する歯車成形法、マシニングセンタなどを活用したギヤスカイビングがあります。 なかでも最も多く用いられているのが、NCホブ盤を用いた歯車創成法です。「ホブ」とは、歯車の歯を加工する際に用いる専用の歯切り工具のことを指します。 この記事ではホブによる歯車加工で発生する課題と、効率的な歯切りのために押さえておきたいポイントについて解説します。
歯車加工では、面粗さの低下・形状不良・作動時の不快音などの課題が生じます。 それぞれの課題について解説します。
歯車の面粗さが低下することで、歯車と接触する部品の摩耗が想定よりも早くなり、性能低下や故障を誘発するなど、機械の動作に支障が生じます。 また歯車に表面処理を施す場合には、面粗さが低いことで塗料のぬれ性や厚みが意図通りにならず、性能が十分に発揮できない場合もあります。
歯車の形状不良が発生する原因として、加工時に用いる「ホブ」に、摩耗やチッピングが生じていることが想定されます。歯車の形状不良は、歯車の歯の折れや異常摩耗につながる恐れがあります。 形状不良の歯車が市場に流出してしまうと、組み込まれた機械の故障や事故にもつながるため、注意が必要です。
加工不良で歯車の接触が悪くなると、稼働時に異音が発生します。 歯車の異音は発生要因が複雑であり、その原因を究明するのは困難です。しかし不快音を放置すると、故障や事故につながる恐れがあるため、原因を特定し解消する必要があります。 歯車の異音の要因には、打痕やキズ、面粗さ、噛み合い率、歯車ケースの剛性などが考えられます。
歯車加工において注意すべき課題の対策について、課題別に解説します。
歯車の面粗さの低下を防止するためには、工具の材質やコーティングの見直し、切削油の供給改善、適切なタイミングでの工具交換などがあげられます。
ホブの切れ味が低下すると面粗さの悪化につながります。そのためホブの材質やコーティングを見直し、切れ味の低下を抑制することで、面粗さの低下を防止することができます。 歯車の材料の持つ硬度などの特性に応じて、コーティングを選択する必要があります。
ホブの切れ味低下につながる要因に、加工面の温度上昇や切粉によるキズなどがあります。 切削油の適切な供給で切粉の排出を促し、冷却効果による温度上昇の抑制で、ホブの切れ味低下を防止することができます。
工具材質の変更や切削油の供給を改善しても、加工を進める中でホブの摩耗は進んでいきます。そのため摩耗の状態を把握し、適切なタイミングで工具交換を行うことが重要です。
形状不良を防止するためには、切削速度の調整や耐摩耗性の高いコーティングの採用、クライムカットの適用などが効果的です。
歯車の形状不良につながるホブの摩耗やチッピングを抑制するためには、切削速度の調整が効果的です。 切削速度を調整することで、切削時の負荷低減・温度上昇の抑制につながるため、摩耗が緩やかになり、チッピングが発生しにくくなります。
ホブの摩耗やチッピングを抑制するためには、耐摩耗性の高いコーティングを採用することが効果的です。 作業効率と品質のバランスから、厳しい条件で加工せざるを得ない場合でも、耐摩耗性の高いコーティングを施すことでホブが摩耗しにくくなり、形状不良の防止につながります。
歯車の形状不良を抑制するためには、クライムカットの採用も効果的です。
クライムカットは工具の回転方向と材料の送り方向を合わせた加工法で、切粉を巻き込みながら材料を加工します。クライムカットは、ホブの摩耗が小さくなる点や切削抵抗が小さい点がメリットであり、形状不良を防止できる加工法です。
歯車が作動する際の不快音を防止するためには、「クラウニング」や「レリービング」による歯すじの調整が効果的です。 クラウニングは歯車の中央部に丸みを持たせる加工法で、レリービングは歯すじの両端を逃がすような加工法です。これらの調整を施すことで、異音に繋がる悪い歯あたりを防ぐことができます。
歯車加工に用いるホブを注文する際には、事前に必要な情報を揃えることが重要です。歯溝のサイズや形状などが完全に一致しなければ、ホブを加工することができません。 ホブ選定時に確認をしておくべき要素として、以下があります。
図面他をしっかりと確認し、それぞれの要素を満たすボブの選定を行うようにしましょう。
この記事ではホブによる歯車加工で発生する課題と、課題を解消するための対策案について解説しました。 歯車はさまざまな機械の動力伝達を担う重要な部品です。組み込まれた機械のトラブルにつながらないよう、面粗さの低下や形状不良などに細心の注意が必要です。