切削加工のなかでも代表的な加工であるフライス加工。 正面フライス(フェイスミル)などのフライス工具を使い、ワークの平面・直角を削る加工方法です。
角ものと呼ばれる四角い部品の切削加工に適しており、固定した加工ワークにフェイスミルやエンドミルと呼ばれる工具を使い、加工ワークの平面・側面・溝を削り出します。フェイスミルは広い面積を効率的に削ることに適しており、エンドミルは削れる面積は少ないですが、様々な加工が可能です。
この記事ではフライス加工、とりわけ正面フライス加工において発生する課題と、効率的な加工のために押さえておきたいポイントについて解説します。
フライス加工には平面・側面・段差・溝加工など、さまざまな種類があります。 これらフライス加工に共通する課題には、以下のようなものがあげられます。
ワークやフライス工具の振動でビビりが発生し、加工精度が低下することがあります。 振動は主軸・ツールホルダー・治具・切粉・切削条件など、さまざまな要因が重なり発生します。
また、ビビりは振動の発生要因によって大きく分けられ、強制ビビり振動と自励ビビり振動の2つがあります。 強制ビビり振動は強制振動源による振動で、フライス加工の断続切削、または機械のモータや歯車、ポンプなど外部の振動が要因となります。
自励ビビり振動は、切削加工中の抵抗の変化などで生じた振動が収まらない場合に起こる振動で、一旦発生すると工具や被削材などの振動の伝達特性と連なって大きな振動になることが多いです。
ワークに大きく切り込むフライス加工は、工具への負荷が大きい加工方法です。 そのため他の工具にくらべ、チップの寿命が短くなる傾向にあります。
平面フライス加工は、金属の表面を効率よく削る加工方法です。 加工にはスローアウェイ(チップ交換式)の正面フライスを使うのが一般的です。 フライス加工とくらべ切削面が大きいため、以下のような課題があります。
切削面が大きいため切削抵抗も大きく、フライス加工にくらべてビビりが発生しやすくなります。
切削面の大きさや工具径によって、加工中の同時切削刃数(ワークに同時に当たる刃数)が変動します。刃数が増えると切れ刃の間隔が狭くなるため、切りくずの排出性が悪くなり、また同時切削刃が増えるため切削抵抗が高くなります。単純な切削抵抗の上昇に加え、排出できなかった切粉が切削時に噛み込んでしまったりすることで、振動が発生しやすくなり、ビビりが発生しやすくなります。
フライス加工のビビり抑制やチップ寿命の改善には、以下のような対策があります。
ビビリ発生抑制の主な対策として、選定する工具の見直しや切削条件の調整が有効です。一言にビビリの抑制対策といえど、下記のように対策方法にはバリエーションがあります。
フライス工具の突き出しを短くすることで、工具の振れやたわみによるビビりの発生を抑えます。 アルミ材質などの軽量工具を選定することも、ビビり抑制のポイントです。 ワークサイズや加工パスによっては、ツールホルダーとワークが干渉するため注意が必要です。
チップが均等に配置されたフライス工具は、切削抵抗が共鳴しビビりにつながることがあります。 その場合、チップの配置が不均等(不等ピッチ)のフライス工具を使うことで、振動を分散させることができます。
フライス工具の突き出しを短くできない場合に有効です。
「切込角」「切込み量」などの切削条件を調整し、切削抵抗を小さくすることでビビりの発生を抑えます。 切込角・切込み量ともに小さくするのが一般的ですが、薄肉ワークでは切込み角を大きくするなど条件に応じた調整が必要です。
加工時の正しいカッターパスと切りくず生成は、フライス加工において安定した刃先と長い工具寿命を保証するための重要な要素です。
曲線を描きながらワークに切り込む(ロールインアプローチ)ことで、切削開始時の負荷を最小限に抑え、チッピングを防止します。 切り込み時の切粉が薄くなるため、ビビり抑制にも効果があります。
加工中はフライス工具が常にワークに接するように調整し、切り込み回数を減らします。 工具への負荷が減ることで、チップの寿命改善につながります。
平面フライス加工では、以下のような対策があります。
主要な切削抵抗は径方向に集中します。長い突き出し量ではこれがカッターのたわみを発生させます。つまり、切削抵抗を小さくすることはビビりの抑制につながります。
正面フライスの突き出しを短くすることで、工具の振れやたわみによるビビりの発生を抑えます。 工具径を小さくすることも効果的ですが、加工効率に影響するため総合的な検討が必要です。
切削面に常に一定の刃数が当たるようにすることで、ビビりの発生を抑えます。 工具の中心とワークの中心をずらし、同時切削刃数を増やすこともビビりには有効です。 また、刃数の変更に加え切れ刃の角度を緩やかにすることも抑制につながります。
切粉の排出が挙げられます。切りくずの排出が悪い場合、エンドミルの切れ刃が切りくずをかみこんで仕上げ面の形状を悪化させます。さらに進めれば切りくず詰まりをおこし、切れ刃の欠損やエンドミルそのものの折損をもたらします。
フライス工具の刃数は、多いほど切削抵抗が安定し加工精度が上がります。 しかし刃数が増えるに従い「チップポケット」が小さくなり、切粉の排出が悪くなるため注意が必要です。 切粉はビビりやワーク損傷の原因となるため、確実に排出する必要があります。
チップポケットとは?:チップとチップの間にあるくぼみ。切粉をスムーズに排出するためには、チップポケットを大きくとることが重要
この記事ではフライス加工で発生する課題と、押さえておきたいポイントについて解説しました。 一見シンプルに見えるフライス加工ですが、NC制御されたマシニングセンタであっても、高度な知識と経験が求められます。 ビビりを抑えながら加工効率を上げるためには、要求精度と生産性を踏まえた総合的な検討が重要です。