PEEK樹脂は、機械強度や、耐熱性、難燃性を兼ね備えた樹脂です。また軽量でありながら、硬化や割れが発生しにくい特性を活かし、航空機や、医療機器部品、自動車部品に使用されます。高強度の環境下での耐久性が高い樹脂であるため、原料価格が非常に高く、より質の高い製造方法が求められます。
一般的なPEEK樹脂の特性は、下記の通りです。
PEEK樹脂は、特に優れた物性があることから、保安部品や高負荷のかかる箇所などに使用されます。射出成形加工で使用されるPEEK樹脂は、下記の通りです。
航空機から自動車業界において、下記の通りPEEK樹脂が導入されています。
PEEK樹脂の加工ポイントは、下記の3つになります。
PEEK樹脂は予備乾燥が必要な樹脂です。
予備乾燥は、適切な乾燥温度と乾燥時間を厳守することが重要です。
なお、予備換装を行う際の注意点として、下記が挙げられます。
加熱筒温度は、一般的に 400℃前後に設定します。
かなりの高温になりますので、パージによる飛散や、ダンゴの取り扱いには十分注意が必要です。パージカバーをしっかりと閉めてパージ作業をすると共に、フェイスシールドや皮手袋の保護具を、必要に応じて着用します。
成形品の形状によりますが、金型温度は200℃前後に設定します。
金型温度の安定や、上昇に時間を要する為、カートリッジヒーターで、金型の温度を調節します。
PEEK樹脂の、特徴として材料が高価であることが挙げられます。
10,000円/Kg以上する高級な材料ですので、使用する際は材料ロスを最小限に留める必要があります。
PEEK樹脂取り扱いで考慮すべきことを、下記に紹介していきます。
品質不良は材料の無駄に直結します。立ち上げ時の捨てショットが最小になるように、手早く
成形条件を調整します。
量産中は、品質監視モニターにて、上限、下限の範囲を設定し、監視範囲外の製品が発生したら、すぐに対処することがポイントです。
立上げ品や、不良品は、粉砕機で粉砕し再利用できます。大きい成形品は粉砕機の間口に入らないので、電動ジグソー等で切断してから粉砕します。
また、ランナーも同様に粉砕することで、リサイクルは可能です。
PEEK樹脂は、粉砕材として使用できますが、一度、加熱されると物性が劣ります。
粉砕材を使用する場合は、必ず客先の承認が必要です。また、バージン材との配合比についても必ず確認し、PEEK樹脂本来の物性が保てているか、品質確認を行います。
PEEK樹脂の特性に合わせた成形条件出しが必要になります。よく発生する不良のポイントは以下の通りです。
鼻タレとは、ノズルの先から樹脂が垂れてしまう事象です。
原因と対策方法は、下記の通りです。
ノズルの温度は加熱筒ゾーンの中でも、1番温度がばらつくことから、鼻タレの原因になります。
対策方法は、ノズルの温度は、メーカー推奨の温度の1番低い温度から設定します。
生産中にノズル詰まりが発生する場合は、5℃刻みで温度を上げていき、鼻タレの挙動を確認します。またノズルヒーターバンドを、ノズルの全長幅にすることで温度が安定します。
ノズル先端の内圧が高いことで、鼻タレの原因になります。
対策方法は、計量後のサックバック量を調整することで、強制的に鼻タレを改善します。
1mmずつ増やしていくことがポイントです。
背圧が高いと、スクリュー先端にある樹脂に圧力がかかり、鼻タレの原因になります。
対策方法は、背圧を低くすることで、スクリュー先端にある樹脂への圧力を軽減させることができ、鼻タレが改善します。
ヤケとは、溶融樹脂がキャビティー内に充填される時に、キャビティー内に残存している空気が
圧縮、燃焼し、成形品に黒く焦げた模様ができる事象です。
最終充填部や、ガス抜けの悪い部分に発生します。
原因と対策方法は、下記の通りです。
金型の最終充填部のガスベンドにガスが蓄積していくと、ヤケの原因になります。
対策方法は、日常点検において、ヤケ不良が発生する前に、メンテナンスすることで改善します。ガスベントの定期メンテナンスをしていない場合は、金型オーバーホールが有効です。
射出速度が速いと、ガスが排出される前に充填圧縮されてしまい、ヤケの原因になります。
対策方法は、射出速度を下げることで、キャビティー内の流動性が下がり、ガスが逃げる余裕が生まれます。また複雑な形状の場合は、多段制御を使用することにより改善します。
加熱筒温度が高いと、樹脂粘度が下がり、ガスが排出される前に充填圧縮されてしまい、ヤケの原因になります。
対策方法は、樹脂温度を下げることで、樹脂粘度が上がり、流れにくくなります。
流れにくくなった分、ガスが抜けるまでの余裕がうまれ、ガス抜けが改善します。
バリとは、金型が合わさるパーティングラインや、スライド入れ子、EJピン上に、樹脂がはみ出だす事象です。原因と対策方法は、下記の通りです。
保圧力が高いことで、必要以上の樹脂が充填され、バリの原因になります
対策方法は、過充填が原因のバリに関しては、保圧を下げることで改善します。
注意点としては、流動末端部がショートになることや、規格外の重量不足不良になる可能性があります。
射出圧力が高いことで、バリの原因になります。対策方法は、製品のバリ発生箇所の充填圧力を弱めることで改善します。多段制御が有効です。
金型は高圧で数千、数万ショット成形します。パーティングラインに高い圧力かかることで、
凸凹になり、バリの原因になります
対策方法は、定期的に金型の当たりを確認します。パーティングラインに損傷がある場合は、
溶接を行い恒久的な対策で改善します。
PEEK樹脂は、機械強度が高く、耐熱性、難燃性に優れる樹脂です。また、軽量であることから、金属やアルミニウムの代替品として使用されます。
PEEK樹脂の取扱い方法や成形加工時のポイント、よく発生する不良については、上述の通り、原料の予備乾燥や、加熱筒温度、金型温度の設定や、取扱いに注意が必要です。
また、リサイクル・粉砕材の使用は、樹脂物性を損なわないレベルで、使用することが大切です。上記を考慮し、より生産性の高い成形加工を目指しましょう。