AS樹脂とは、アクリロニトリルスチレン樹脂(Acrylonitrile Styrene Resin)の略称で、アクリロニトリル、スチレン、ブタジエンなどのモノマーを重合させて作られる熱可塑性樹脂の一種です。海外ではSAN樹脂(Styrene AcryloNitrile copolymer)とも呼ばれます。AS樹脂は、透明性が高く、加えて、耐熱性や耐衝撃性が良く、成形加工性も優れているといった特徴があります。
透明で、キズがつきにくいことから、主にレンズや外観部品として使用されます。
また、強度を強化したい時は、ガラス繊維を組み合わせて使用することもできます。
一般的なAS樹脂の特性は、下記の通りです。
AS樹脂は、私たちの身の周りの様々な場所で使われています。透明性が高く、中に入れたものが確認できるので、容器やフタに使用されます。PCやアクリルより安価なため、強度が不要なメーターカバーや外観部品に使用されます。射出成形加工で使用されるAS樹脂は、下記の通りです。自動車部品から一般雑貨品まで、多岐に使用されています。
AS樹脂の加工時に注意すべきポイントは、下記の3つになります。
AS樹脂は予備乾燥が必要な樹脂です。予備乾燥は、適切な乾燥温度と乾燥時間を厳守することが重要です。
加熱筒温度は、一般的に200〜 250℃に設定します。低い温度で成形すると、充填された樹脂は途中で固化が始まり、最終充填部まで行き届かず、成形品はショートしてしまいます。加熱筒温度は、ランナー、ゲート、成形品の形状を考慮した上で、設定することがポイントです。
成形品の形状によりますが、金型温度は40℃〜70℃に設定します。金型温度を70℃以上に上げると、樹脂の流動が良くなり、バリ不良になる可能性があるので注意が必要です。
温調機は、一般的に40〜 80℃に設定します。温調機は、金型温度を一定に管理することで、品質のバラツキを安定させます。また、樹脂の流動性を良くしたり、光沢を高める時などに使用します。なお、成形品に光沢を求める場合は、高めに設定します。
AS樹脂の特性に合わせた成形条件出しが必要になります。よく発生する不良のポイントは以下の通りです。
異物とは、黒点が、成形品の表面に現れる事象です。AS樹脂は透明なので、チリごみや、前の原料が異物として成形品に練り込まれてしまうと、不良となるので注意が必要です。よくある原因と対策方法は、下記の通りです。
作業着が汚れていたり、ホッパー各部に前材料の付着がある場合、異物の原因になります。
作業前に、作業服にチリごみが付着していないか確認し、粘着ロール等で取り除きます。
ホッパーを掃除する場合は、上からばらしていき、パッキン部や隙間は重点的にエアーブローします。
ASは、長期で成形するとシリンダーに炭化物が蓄積し、異物の原因になります。
黒点の炭化物が頻繁に発生する場合、一旦成形を中断して、パージを行う必要が出てきます。パージをしても異物が抜けない場合は、スクリュー分解清掃が効果的です。
シルバーとは、材料に含まれる空気やガスが成形品の表面上に現れ、筋状の模様になる事象です。よくある原因と対策は、下記の通りです。
材料の乾燥不足は、シルバーの原因になります。また、立ち上げパージする際、パージ球全体に無数の泡状がある場合は、材料乾燥不足が原因になります。
再度、予備乾燥を行います。温度と時間を厳守して、材料の乾燥を十分行うことで改善します。
背圧が低く、スクリュー回転が速い場合、可塑化を行う際に、エアーを噛んでしまいます。エアーを噛んだ状態で、計量された樹脂を射出すると、シルバーの原因になります。
背圧を高くして、スクリュー回転を下げることで、原料がゆっくり可塑化されます。ゆっくり可塑化することで、エアーを噛むことなく計量されシルバーが改善します。
加熱筒温度が高い場合、樹脂粘度が下がり樹脂分解が起こり、シルバーの原因になります。
加熱筒温度を低くすることで、樹脂粘度が上がり、樹脂の分解を低減させ改善します。成形する時は、メーカー推奨温度の一番低い温度から成形可能か試していきます。
注意点としては、設定温度を低くするとキャビティー内の流動性が下がります。
流動末端のショートに注意が必要です。
湯ジワは、ゲート付近または、最終充填部に発生します。成形品の表面が、波模様になる事象です。よくある原因と対策は、下記の通りです。
射出速度が遅い場合、流れが遅くなり、湯ジワの原因になります。
射出速度を上げることにより、キャビティー内の流動性が上がります。また複雑な形状の場合は、多段制御を使用することにより改善します。
加熱筒温度が低い場合、樹脂粘度が上がり、樹脂の流動性が下がるのが湯ジワの原因になります。
加熱筒温度を高くすることにより、樹脂粘度が下がり、スプルーから最終充填部まで樹脂が流れやすくなり改善します。注意点としては、加熱筒温度を上げることにより、ガスが発生しやすくなります。
金型温度が低いと、樹脂の流れが悪くなり、湯ジワの原因になります。
金型温度を上げることにより、流れが良くなり改善します。
AS樹脂の取扱い方法や成形加工時のポイント、よく発生する不良について説明しました。AS樹脂は、透明性を活かしたレンズや、容器、フタなどに使用されます。自動車部品や、家電部品で使用され、私たちの生活では欠かせない樹脂です。また、AS樹脂は、環境負荷の低い樹脂として注目されています。再生可能な原料を使用したAS樹脂も開発されており、今後ますます需要が増えることが期待されています。しかし品質管理には注意が必要であり、原料準備や、加熱筒温度、金型温度、温調機温度に気をつけて加工を進めていきましょう。上記例のような要素を考慮し、より生産性の高い成形加工を目指しましょう。