PVC樹脂とは、ポリ塩化ビニルの事で、一般的に「塩ビ」と呼ばれます。 PVC樹脂は「5大汎用プラスチック(PE(LDPE、HDPE)、PP、PVC、PS)」の1つです。
他の樹脂との大きな違いは、ヤケやすいことです。温度管理と適正な処置が重要になります。一方、安価で生産性が高いという理由で、広く使用されています。
PVC樹脂の様々な成形加工法で使用され、押出成形、カレンダー成形、射出成形、熱成形などが代表的な成形法です。 今回は、射出成形法における注意事項、取扱いについて説明していきます。
射出成形加工で使用されるPVC樹脂は下記の通りです。PVC樹脂は、軟質と硬質に分類され、それぞれの特性に応じた用途があります。
硬質PVC樹脂は、強度が高く、耐候性に優れることが特徴で、主に屋外で使用されています。
上記のように住宅関連の屋外部品(雨どいや電気メーターなど)に使用されます。 硬質PVC樹脂は、耐候性、耐久性、加工の良さから、金属や木材に代わる丈夫なプラスチック 材料として、広く普及しています。また、経済的に安価であり、軽いというメリットもあります。 硬質PVC樹脂の主な用途は、上水道菅、下水道管用のパイプ、電線被覆です。建築現場での建具、雨どい、窓枠や、自動車や家電部品にも使用されています。
対して、軟質PVC樹脂は柔らかく、多少厚みがあるものでも手で曲げられるのが特徴です。業界問わず、様々な分野で使用されています。
上記のように、その柔らかい材質を活かした台車の衝突干渉バンパー部品などに使用されます。医療機器では、耐薬品性も高いことから、輸液バッグの継手部品などに使用されます。
PVC樹脂は、加熱時に発生するガスの取り扱いがポイントになります。
加熱筒の温度管理は非常に重要です。特に少しの時間でも滞留する事で、樹脂がヤケてしまいます。長時間停止させる場合は、速やかにパージ材にてパージを行い、続いてPEで加熱筒内を置き換える必要があります。放置すると発生したガスの影響で、スクリュー、加熱筒内側が錆びてしまいます。
加熱筒温度は、特に慎重な管理が必要です。低い温度で成形すると、途中で固化が始まってしまい、最終充填部まで行き届かず、ショートします。以下の着眼点とポイントを押さえて成形を行うようにしましょう。
一般的に160〜 190℃以内で低めから設定します。
成形品により200℃以上、上げる場合は5℃刻み程度で設定を行いパージをします。
ヤケがないかを確認します。
加熱筒温度設定は、ランナー、ゲート、成形品の形状を考慮した上で、設定する事が ポイントです。
加熱時に発生するガスにより、すぐに金型を錆び付かせてしまう事から、キャビティーの表面はメッキ加工されています。 また、エジェクターの摺動部にもガスがこびり付いてしまい、かじりの原因にもなります。 通常の金型より非常にデリケートなため、金型のメンテナンスを頻繁に行う必要があります。
一般的に、硬質PVC樹脂を成形する場合は、専用の射出成形機を使用します。 硬質PVC樹脂を成形するには、低温の樹脂を高圧で射出する必要があり、型締め/射出共に容量の大きいユニットを搭載します。 また、硬質PVC樹脂から発生するガスに対応するため、スクリュー/加熱筒は、耐蝕耐摩耗 材質を選定します。 スクリュー先端の形状は逆止リングの無い砲弾型になり、クッション0mmで成形します。
加工時の温度上昇により、分子中から塩素・水素が離脱し、塩化水素の発生が顕著になります。 塩化水素は、スクリュー・金型を腐食(酸化、錆)します。安定剤を配合することで、塩化水素の離脱を抑制します。
下記4つの安定剤を配合する事により、安定した成形が可能になります。
全体の4割近くを占めており、長期の耐久性が求められる成形品に最適で、安定剤の効果と しては抜群に優れています。
全体の2割近くを占めており、自動車、家電用の電線被覆材として優れています。
全体の1割近くを占めており、透明性や電気絶縁性に優れています。
全体の1割近くを占めており、透明性、耐候性に優れています。
PVC樹脂はPP、PEとは異なり、取扱い方法が非常に難しい事が特徴です。 成形条件出しにコツが必要です。 よく発生する不良例と対策のためのポイントは以下の通りです。
PVC樹脂の最大の不良はヤケです。 加熱筒内で滞留時間が長い、または加熱温度が高いことで、樹脂の一部が分解しヤケてしまいます。対策にあたっての着眼点とポイントは以下です。
PVC樹脂は加熱時に発生するガスの影響が強いことから、加熱筒の設定温度は低めに設定します。 5℃の温度差で分解が始まり、ヤケが発生しますので注意が必要です。一度ヤケが始まると、以降の成形品はずっとヤケが続きます。 改善するには下記の処置が必要です。
2.1の時、ヤケが続く場合は、パージ材にてよくパージを行い、続けてPEに置き換える。その後、PVC樹脂を投入する。 3.2の後、ヤケが出る場合は、スクリューを分解し清掃メンテナンスを行う。
通常の成形条件では、クッション量を適量残し、バラツキを管理します。 PVC樹脂の場合は、滞留量を最低限にするために、クッション0mmで成形することが多いです。 クッション量が0㎜で2次圧(保圧)時間が同時にアップする様に設定します。
シルバーストリークは、製品表面に出る不良であり、銀条とも呼ばれます。不良の原因と着眼点、対策のポイントは以下が挙げられます。
PVC樹脂は、少しの滞留時間でも加熱筒内で分解する事により、シルバーストリークの発生原因となります。 樹脂の滞留を予防する計量条件ポイントは下記の通りです。
PVC樹脂は、ヤケ予防で樹脂温度が低いため、キャビティー内の固化速度が早いことが特徴です。フローマーク、湯ジワ、ショートの原因になります。 それらは、射出速度を上げることで改善しますが、逆にシルバーストリークが発生します。 外観不良事象を良く確認し、射出速度は多段階制御し、最適化します。
射出速度が低速の場合、フローマークが発生します。一般的な射出成形におけるフローマークの改善方法は下記の通りです。
しかし、PVC樹脂は、加熱筒の温度上昇、射出速度が高まると、分解が始まりヤケてしまいます。そのため、PVC樹脂のフローマークは、別の方法で解決しなければなりません。
金型温度を上げる事により、射出速度が低速でもキャビティー内で流動しやすくなります。 ただし、金型温度をむやみに上げると、金型が膨張し、樹脂から発生するガス逃げクリアランスを狭める可能性がありますので注意が必要です。
ガス逃げ不良によるフローマークに対しては、事象箇所のPLにガスベントを追加することで改善が期待できます。ガスベントを追加により、流動の先端(フローフロント)の流速を落とさず充填できるようになります。
PVC樹脂の取扱い方法や加熱筒の設定、よく発生する不良について説明しました。 PVC樹脂は、PP、PE樹脂に比べると取り扱いが難しくなります。 加熱筒の管理、設定温度や、加熱された樹脂から発生するガスは要注意であり、メンテナンスを怠ると、成形機や金型に大ダメージを与えてしまいます。 上記例のような要素を考慮し、より生産性の高い成形加工を目指しましょう。