スプラインとは自動車や農業機械、船舶、工作機械などの動力を伝達する部品に採用されている機構で、多数の刃で大きなトルクを伝達します。スプラインは高い強度と耐久性が必要とされるため、材料には炭素鋼であるS45Cやクロモリ鋼であるSCM440、ステンレス鋼であるSUS330など、熱処理を前提としたものが多く使用されています。 この記事ではスプラインの特徴や代表的な加工方法、スプラインを加工する際に発生する課題と対策について解説します。
スプラインにはいくつかの種類があり、そのなかでも代表的なものがインボリュートスプラインです。「インボリュート」は、円筒に巻きつけた糸をゆるまないようにほどいた際に、糸の先端が描くインボリュート曲線が由来です。 インボリュートスプラインは、「JIS B 1603」に規定されているように、インボリュート曲線に基づいて形成された歯形により、回転精度が高く、滑らかに動作するといった特徴があります。
インボリュート曲線で作られた歯形同士で回転運動をさせると、接点は同一曲線状を滑らかに移動します。これは、回転の精度や噛みあいの誤差に影響する歯車同士の中心距離が一致していることを示しているため、インボリュートスプラインを組み合わせることで、回転精度を高めることが可能です。
インボリュート曲線は、その法線が常に一つの円に接するような特徴を持ちます。インボリュートスプライン同士を組み合わせることで、歯車同士の噛みあい開始から終了まで、圧力がかかる角度が一定の状態を維持するため、ずれやがたつきが生じずに、滑らかに動作するという特徴があります。
インボリュートスプラインの加工法としては、ホブ加工(創成法)やミーリング加工(成型法)が代表的です。
ホブ加工は従来、ホブ盤による専用設備での加工方法が一般的でしたが、近年はホブホルダを使用することで、ホブ盤だけではなく複合加工機での加工もできるようになりました。高い精度で高速加工が可能なため、量産向けの加工法として知られています。
ホブ加工では、円筒状の工具であるホブカッタを使用します。加工したい材料とホブを回転させることで、材料の歯切りを行います。ホブカッタは歯車の狙い形状別に用意する必要があるため、複数種類の歯車を用意する場合には工具費用が高くなりがちです。 また、ホブ加工は内径側の歯切りはできず外径側の歯切り加工のみに使用されます。
ミーリング加工は、一般的なエンドミルを使用して3DCADによりモデリングした形状に加工する製造方法です。スプラインや歯車を削り出すことも可能であり、柔軟な歯車形状に対応できる点が大きなメリットです。 一方で、歯形を一溝ずつ切削加工していくため、加工に必要な時間が長くなるため大量生産が必要な量産向けではありません。試作品や治具のような、少量多品種向けの加工方法として知られています。
スプライン加工をする際には、加工精度の低下や工具異常の発生といった課題が生じる可能性があります。
工具の摩耗状態や取り付け不備などにより、スプラインの加工精度が悪化してしまうことがあります。 スプラインの加工精度が低下すると、歯車のピッチ不良や歯形の倒れが発生する可能性があるため、高い加工精度を維持することが重要です。
加工条件の不備や同一工具の長時間使用などにより工具に異常が発生した場合、スプライン加工中に工具の摩耗が進行したり、折損が発生する可能性があります。 異常な工具を使用して加工したスプラインは不良品になるだけでなく、設備の破損にもつながるため、注意が必要です。
スプライン加工における課題を解決するためには、加工精度・工具異常それぞれに対して対策を検討することが重要です。
高い加工精度を維持するためには、加工前の段取り段階で精度の確認を行う必要があります。使用する工具本体の精度だけでなく、ホブの取り付け精度は十分か?角度に間違いはないか?取り付けホルダのがたつきはないか?などの確認が重要です。 また、ワークの滑りや工具と主軸の同期といった部分にも十分な配慮をしましょう。
工具の異常を防ぐためには、加工条件の適切な設定が重要です。ウェット・ドライの変更や切削速度などの条件については、メーカが推奨している条件に調節を行う必要があります。 また、加工時には切粉の噛み込みが生じないような対策も必要不可欠です。
この記事ではスプラインの特徴と、スプラインの代表的な加工方法・課題について解説しました。 スプライン加工をする際には、高い精度を実現するためにメーカが推奨するコーティング・材種を用いた加工が理想的です。もしスプライン加工をする際に異常が発生してしまったら、まずは段取り段階の精度と加工条件が適切かどうかという2つの軸で、原因調査を進めましょう。