工具折損(せっそん)とは、加工中の工具への負荷が一定以上となり、工具が折れてしまう現象です。加工中の工具折損は、加工不良の発生や設備へのダメージだけでなく、計画通り生産が進まないなど大きな機会損失につながります。 この記事では切削加工時の工具折損の原因と、効果的な対策について解説します。
ワークの切削加工時に工具折損が発生した場合、製品不良につながるだけでなく、工具交換など後工程の作業にも影響を及ぼします。また工具径が大きいほど、折損時に機械に与えるダメージも大きくなるため、確実に防止する必要があります。 切削工具の折損は、次のような場合によく起こります。
穴加工や溝加工など、切粉が排出しにくい状況では切粉が工具と絡まってしまうことがあります。切粉が絡まると工具への負荷が通常よりも大きくなり、あるタイミングでその負荷に耐えきれず工具が折損してしまいます。
工具にはそれぞれ許容できる切削抵抗値があり、その値はおなじ工具でも加工の状況によって異なります。加工時に許容できる抵抗値を超えてしまうことで、工具折損が発生します。 特にチッピングや気付かないレベルの微細な欠けが発生している場合には、通常よりも許容抵抗値が低下しているため、工具折損が発生しやすくなります。
適切な工具段取りができていないと、回転時に振れが発生し、工具折損してしまう場合があります。例えば工具の軸が回転主軸に対してずれた状態で取り付けられると、通常ではかからない方向から負荷がかかるため、工具が折損しやすくなります。
工具折損によって発生する課題には、後工程の工数増加、ムダな生産時間の発生などがあげられます。
工具が折損してしまうと、加工しているワークは製品として使えなくなり破棄となります。 加えて、工具折損によって設備への影響がないかの設備点検や工具の交換、交換用工具の発注、生産計画の見直しなど、さまざまな後工程の作業が発生してしまうため、稼働率の悪化を招いてしまいます。
無人稼働において工具折損に気がつかないまま加工を続けてしまうと、大量の不良品を生産してしまい、生産にかけた時間がムダになってしまいます。工程によっては、工具折損が発生する前に加工したワークも、全数検査が必要になるなど、生産性が大幅にダウンしてしまうこともあります。
工具折損が発生する要因はさまざまです。一時的な負荷が原因でも、そこに至るまでどのように負荷が蓄積したのかを明確にするのは簡単ではありません。負荷が蓄積していく経過が分からなければ、根本的な対策を打つことはできないでしょう。
工具折損を防ぐための対策方法としては、以下のようなものがあげられます。 工具選定による対策と加工条件による対策に分けて解説します。
工具選定により工具の折損を防ぐ対策としては、次のようなものがあります。
切粉が絡まることで工具に大きな負荷がかかります。そのため、切粉を細かく分断する機能をもったチップブレーカの採用が効果的です。切粉が細かく分断されれば、工具に絡まることもなく想定外の負荷も発生しないため、工具折損が発生しにくくなります。
切粉を除去する手段として、高精度のクーラント供給も効果的です。加工面に精度よくクーラントが供給できる工具を選定すれば、切粉の影響を最小限に抑えられます。 また加工面を冷却することにより、工具折損につながるチッピングも抑制できます。
工具の振れを抑制するためには、工具を固定するホルダの選定が重要です。ホルダには工具との結合方法の違いで、コレットチャックやミーリングチャック、油圧チャックなどがあります。 さまざまな種類があるホルダは、工具との相性や規格があるため、加工精度を向上できるような組み合わせの選定がポイントです。
切削時の加工条件による対策として、切粉排出を考慮したパスの採用や切削時の負荷を下げる条件設定などがあげられます。
切粉が詰まらないように、切粉の排出性を考慮したステップ送りなどの加工パス設定が効果的です。 また切粉を分断する「揺動切削」などを利用することで、切粉を排出することもできます。
切削時に工具にかかる切削負荷を小さくするためには、主軸の回転数や送り速度・切り込み量などを小さくすることも効果的です。 工具と加工ワーク、加工パスなどの組み合わせによっては、切削条件を上げた方がパフォーマンスを発揮する場合もあるので、効果を確認しながら条件を調整する必要があります。
専用のシステムを用いる必要が出てきますが、切削加工時の加工プロセスをモニタリングすることも対策として有効です。対策例としては、以下のようなものがあげられます。
切削加工中のプロセスで工具にかかる負荷を確認することが可能です。電流値や音波等、加工負荷を可視化するに際して、インプットとするデータはシステムごとに異なりますが、それらデータを元にして算出される工具にかかる加工負荷を元にむしれ発生防止の藍作を行うことが可能となります。一定の水準に達した段階や異常値の検出をトリガーにして、装置を止める等の対策を行えます。
上述の通り、工具折損の発生原因にはさまざまなものがあります加工プロセスをモニタリングすることで、工具折損の原因が切削工具の摩耗によるものか、突発的な事象によるものかを確認することが可能です。原因が特定できれば、適切な対策を行えるようになり、闇雲に工具の設定寿命を短くしてしまうと言ったことを防げます。
この記事では、切削加工時に発生する工具折損の原因と効果的な対策について解説しました。 工具折損の原因を特定することは簡単ではありません。状況に合わせた対策案が速やかに選定できるように、事前に対策案を用意しておくといいでしょう。