溝入れ加工は、回転するワークに刃物をあて溝を加工する旋削加工のひとつです。溝入れ加工には、ワーク外周に溝を入れる「外径溝入れ加工」、ワーク端面に溝を入れる「端面溝入れ加工」、ワーク内径に溝を入れる「内径溝入れ加工」などの種類があります。 この記事では、旋盤による溝入れ加工で発生する課題と、効率的な溝入れのために押さえておきたいポイントについて解説します。
旋盤による溝入れ加工では、加工面品位の不良、チップの寿命低下、切粉処理の不良といった課題が発生します。
溝入れ加工は、加工面の精度が低下してしまうことがあります。特に高い生産性が求められる場合、一発溝入れ加工のような手法が取られることもあり、その場合には仕上げ加工は行われません。また、深い溝を入れる場合、バイトの突き出し量が長くなりビビりが発生しやすくなります。
溝入れ加工ではバイトの両面が拘束されるため、切削熱を排出しにくくチップが高温になりやすい加工方法です。高温になったチップで加工を続けると、チップへの負荷が高くなり、想定よりも寿命がもたないことがあります。
深い溝の加工では、切粉の排出がうまくできません。切粉の排出性を高めるために外部クーラントを利用する場合も、溝の中にまでクーラントが届きにくく、うまく切粉を排出することができないことがあります。
溝入れ加工を行う際に生じる課題を課題別に整理し、それぞれの対策を紹介します。
溝入れ加工で加工面品位の不良を防ぐためには、以下のような対策が考えられます。
チップは加工の目的や条件によって、仕上げ用・中荒加工用・荒加工用に分類されます。加工面品位を向上するためには、切削抵抗が低い「仕上げ加工用」のものを選ぶとともに、切粉の排出を促すチップブレーカ付きのチップを選定することが効果的です。
加工面品位低下の要因のひとつであるビビりは、バイトの突き出し量が長いほど発生しやすくなります。そのため、突き出し量の短いバイトを選定することが重要です。 特に「内径溝入れ加工」では突き出し量が長くなる傾向があり、注意が必要です。
ワイパーチップは、刃具のコーナ半径と直線の接線となる部分に、仕上げ刃であるワイパーを採用した工具で、ワイパーインサートともよばれます。 特に高い生産性が必要な場合や、送り速度が速い場合に効果を発揮します。
溝入れ加工を「荒加工」と「仕上げ加工」の2工程に分け、切粉の排出を工程ごとに行うことで、加工時間短縮と品質安定化の両立を目指すことが可能です。 荒加工として用いられる溝入れ加工には、「突込み溝入れ加工」「横引き旋削加工」「ランピング加工」などがあげられます。
溝入れ加工で用いるチップの寿命を改善するための対策について解説します。
旋削時の切粉がチップに絡まるとチップの寿命に影響するため、切粉の排出を考慮した切削パスを採用することが効果的です。切削パスの変更は、加工時間や加工精度にも影響するため、バランスを取った設定が必要です。
クーラントが届きにくくチップが高温になりやすい溝入れ加工では、高圧の高精度クーラント対応工具を選定することが効果的です。加工面に可能な限りクーラントを供給することで、切削時の発熱を抑え、チップ寿命を改善することができます。
チップの寿命を改善するためには、耐摩耗性を高めるコーティングチップや、チップブレーカ付きのチップを選定し、耐摩耗性を高めることが重要です。 チップによって切削性能が変わるため、必要な加工精度やワーク材質に合わせて適切なチップを選定することがポイントです。
切粉処理の不良による影響を改善するためには、切削条件の調整や高精度クーラント対応の工具を選定することが効果的です。
切粉を適切に処理するためには、主軸の回転数や送り速度、切り込み量などを調整することが効果的です。特に高送りに設定することで、切粉が理想的な状態に近づきます。 一方で、送り速度が大きいとチップへの負荷が大きくなるため、チッピングが起きる可能性があり、大きくしすぎないように調整する必要があります。
クーラントは工具の冷却だけでなく、切粉の除去に対しても効果的です。高圧の高精度クーラント対応工具を選定し、加工面にクーラントを供給することで、切粉処理の不良を改善することができます。
この記事では旋盤による溝入れ加工で発生する課題と、効率的な溝入れのために押さえておきたいポイントについて解説しました。 溝入れ加工の課題別対策では、ほとんどの対策で背反をともなうため、いかに生産性や加工精度などのバランスを取るかが重要となります。