中ぐり(なかぐり)加工は、あらかじめドリルなどで開けた下穴をさらに広げる加工法です。ドリルでは開けることができない大きな穴を、高い精度で開けたい場合に欠かせません。 中ぐり加工では、中ぐりバイトと呼ばれる専用工具を使い内径を広げていきますが、穴径やバイトの太さを考慮する必要があり、注意すべきポイントが多くあります。 この記事では中ぐり加工で発生する課題と、精度の高い中ぐり加工のために押さえておきたいポイントについて解説します。
中ぐり加工では、以下のような課題が発生することがあります。
中ぐり加工は、ドリルで開けた下穴を広げ、内径を加工していくため加工面が見えづらい加工法です。そのため、工具や加工面の状態を確認しながら調整していくことが難しく、狙い通りの加工ができているかが確認できません。
中ぐり加工は、バイトの突き出し量が大きくなるため、振動によるビビりが発生しやすい加工法です。ビビりが発生することで、加工面の劣化や工具の破損、場合によっては機械設備の故障につながる可能性もあります。
中ぐり加工は切粉を排出しにくく、内部に切粉が蓄積しやすい加工法です。 特に止まり穴(貫通していない穴)や、深穴を加工する場合に切粉の蓄積が起きやすく、内部に蓄積した切粉はバイトと絡まり、加工面の精度悪化を引き起こします。
中ぐり加工は、ドリルで開けた下穴を加工するため、切削時の経路である切削パスの動きが見えづらくなります。適切な切削パスを設定できないことで、バイトとワークが干渉してしまうことがあり、ワークの破損やバイトの折損が発生してしまう可能性があります。
中ぐり加工の課題を対策するためには、以下のような方法が挙げられます。
加工面の見えづらさを解消するためには、プロセスモニタリングシステムの採用が有効です。加工中の異常をモニタリングすることで、これまで視認が難しかった加工面を間接的に確認するとともに、バイトの摩耗や折損などを検出し加工不良を未然に防ぎます。 またプロセスモニタリングシステムによって、これまで測定器が干渉するため現物合わせで行なっていた検査工程の手間を省くことも期待できます。
ビビりの発生を抑制するためには、バイトの選定や切削条件の調整が重要です。
ビビりは、バイトの種類や刃の角度によって発生しやすさが異なります。径方向に負荷が少なくなるようなバイトを選定することで、振動を抑制することが可能です。またテーパ状のバイトも、ビビりの抑制に効果的です。
ビビりを抑制するためには、切削抵抗を低減する切削条件の設定が必要です。一方で、極端に低い切削条件の場合、加工効率や仕上げ品質の悪化、切削抵抗以外の要因によるビビりの発生につながるためバランスが重要です。 切り込み量や回転数、送り速度などの切削条件を、外径加工における推奨条件の80%程度に調整することで、バランスを取りながらビビりの発生を抑えることができます。
切削時に発生する切粉の蓄積を防止するためには、切削パスの工夫やクーラントの使用、切粉の切断の促進がポイントです。
切粉は、工具を穴から引き抜くように動かすことで、排出しやすくなります。切削パスを設定する場合には、連続で加工し続けるのではなく、一定の加工が完了したら切粉を排出できるよう工具を引き抜くパスを採用することが効果的です。
クーラントは切削点の冷却に加えて、切粉の排出にも効果的です。中ぐり加工の場合には、刃先からクーラントを吐出できるスルークーラントを採用することで、効果的に切粉を排出することができます。
切粉を切断することで、バイトへの巻き込みが発生しにくくなります。バイトに設定されたチップブレーカは、使い方次第で能力が左右されるため、切削条件の設定が重要です。
バイトとワークの干渉を防止するためには、穴の内側でどの程度バイトが動くかを計算する必要があります。空運転をした際に大きく径方向に動いていないかなど、設定した条件と実際の動きのずれを確認することが重要です。
この記事では中ぐり加工で発生する課題と、精度の高い中ぐり加工のための押さえておきたいポイントについて解説しました。
難易度の高い中ぐり加工ですが、バイトとワークの接触事故や機械の破損を防ぐためには、切削パスをイメージした上で加工を行うことが重要です。