クラッキングとは、成形品に外部圧力が加わったり、材料自体の強度不足により、成形品の一部にひび割れ・亀裂が入る外観不良です。クラッキングは、金型、成形条件、原料に起因する事象です。
成形品の形状から、クラッキングが発生しやすい箇所は、基本的には特定できます。外因を受けやすい箇所や、強度が低い箇所で発生しやすい不良です。以下が代表的な箇所です。
・勾配が少ない:抜け勾配が0.5度以下の箇所
・肉厚が薄い:成形品の形状が肉厚から薄肉に変化する箇所
・リブがない面:成形品の形状的にフラット面が多い場合やエジェクターピンの間隔が広い場合に注意が必要
射出成形加工におけるクラッキングの発生要因は、大きく分けて金型、成形条件、原料の3つです。
金型が要因で、クラッキングになる場合は下記の3通りあります。
成形品を離型するエジェクターピンは、丸ピン、各ピン、傾斜ピンなどがあります。成形品突き出し時、平行度やバランスが悪いと、成形品にクラッキングが入ります。成形品を突き出すことで起こるクラッキングは、エジェクターのバランスを調整することで、改善します。エジェクターバランスの確認手順は下記の通りです。
1. 成形していない状態の金型にて、エジェクターピンを前後進させ、目視と聴覚にてバラツキ、カジリ、異音がないか確認する。
2. 必要に応じてエジェクターピンに適度な油分を塗布し、何回か前後進を繰り返し馴染ませ、摺動バランスを調整する。
3. 成形したら、手動でエジェクターを動作し、摺動に問題がないか、クラッキングがないかを確認する。
成形品の強度が弱い箇所は、型開時・エジェクター時に、抜け勾配が少ないとクラッキングが発生します。金型内に樹脂が充填された状態は、射出圧力が大きくなっています。成形品を無理なく離型するには、適切な抜き勾配をつけることがポイントです。抜け勾配をつけすぎると寸法規格に収まらなかったり、嵌合に影響が出てしまうので、注意点が必要となります。製品図面上、品質に問題がない程度に勾配をつけるのも対処法の一案です。
量産中や久しぶりに成形した時に、クラックが発生する場合は、製品面のサビやガス腐食により抜けが悪くなっていると考えられます。この場合は、クラックした面を確認し、荒れていれば磨き直すことで改善が期待できます。ただし、製品面の磨きは、自己判断せず関係各所に確認をとってから行いましょう。
成形条件が要因で、クラッキングになる場合は下記の通りです。
射出圧力(1次圧、保圧)が高い状態でキャビティー内に充填すると、オーバーパックになりクラッキングが発生します。オーバーパックによるクラッキングの特徴は、製品重量規格から大きく過充填している時に発生することです。立上げ時の1次圧は射出速度が出る程度の圧力に設定し、保圧は低目から設定します。また、連続成形中にオーバーパックによるクラッキングが発生した場合は、射出圧力、保圧、計量などを、設定値から低めに調整します。
エジェクター圧力・速度が高すぎることで、クラッキングが発生します。目視、聴覚にて、成形品の離型状態を確認し・調整します。エジェクター初速をゆっくりにし、その後速度を上げる多段制御が有効です。
原料がPP、PEのような結晶性樹脂なのか、またはPS、PMMA、PCのような非結晶性樹脂なのかにより、クラッキングの発生頻度は変わってきます。結晶性樹脂は、構造的に結合力が高いため、クラッキングは起こりにくいです。結晶性樹脂ではクラッキングではなく、変形や白化への配慮がより必要になります。一方で、非結晶性樹脂は、クラッキングに弱く、特にPSはクラッキングが発生しやすい樹脂であり、条件設定に注意が必要です。
粉砕材を配合した場合は、クラッキングが発生しやすいです。粉砕材は、1度熱が加わった樹脂の再利用なので物性が低下してしまうためです。粉砕材の配合比によるクラッキングは、まず新材のみで成形を行い、クラッキングしないか確認します。徐々に粉砕材の配合比率を10%、20%、30%と増やしていきます。その際にサンプルを採取しておき、強度試験装置にて判定を行います。
上述の手順のように、新材のみで成形してみてクラッキングが発生するか確認し、粉砕比率を調整、配合率を客先・品質管理の承認の上、決定しましょう。
非結晶性樹脂の場合、一般的に予備乾燥を必要とします。乾燥温度や時間が適切で無い場合、水分が抜け切れていないことからクラッキングが発生します。予備乾燥不足によるクラッキングは、適切な乾燥温度と時間で再乾燥することで改善が期待できます。
クラッキング不良を、次工程に渡す前、客先へ納品してしまう前に食い止めることが大切です。下記の2通りを実施することで、クラッキング不良の流失予防となります。
立ち上げ時は、品質規格内かしっかりと初期検査することが重要です。成形品を良く確認して、基準サンプル・不良限度サンプルと見比べましょう。 もし判断が難しいようであれば、一旦品質管理部門に判断を委ね、合格を待った上での立ち上げが望ましいです。
抜き取り検査は、対象とする生産ロットの内、定時、または定数のサンプルを評価する検査です。結果をロットの品質水準に照らし合わせ合否を判断します。抜き取り検査でクラッキング不良を発見した場合、時間を遡り全数検査を行うことで流出を防止します。
クラッキングについて、不良発生要因及び原因、不良対策についてまとめました。クラッキングの要因には、金型、成形条件、原料と様々なものがあります。成形品の形状からクラッキングの発生しやすい箇所はある程度特定できるため、事前に対策をして、クラッキングを見逃すことなく、高い成形加工技術の確立を目指しましょう。