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PET樹脂(ポリエチレンテレフタラート)物性と取扱い方法について解説

PET樹脂(ポリエチレンテレフタラート)物性と取扱い方法について解説

injection-molding

PET樹脂とは

PET樹脂とは、耐熱性、耐寒性や透明性に優れており、主にボトルや容器に使用されます。また、耐溶剤性、耐薬品性があることから幅広い製品で使用されます。電気絶縁性にも強く、フィルム、磁気テープとして使用することにも適しています。

一般的なPET樹脂の特性は、下記の通りです。

・耐熱性に優れる

・耐寒性に優れる

・透明性が良い

・耐溶剤性に優れる

・耐薬品性が良い

・電気絶縁性が良い

性質 / 特性

性質/ 特徴 備考
分子構造 結晶性
収縮率 小さい 0.2~0.4%
透明
ガラス転移温度 高い 75℃
耐衝撃性 非常に強い
耐熱性 150℃
耐候性 良好
電気的性質 優れた電気絶縁性をもつ
耐薬品性 強い
寸法安定性 成形しやすい
機械特性 良い
成形品の外観 非常に良い

代表的な用途

射出成形加工によって生産される、PET樹脂を用いた製品の代表例として、下記のものが挙げられます。熱可塑性の合成繊維の中では、比較的熱に強く、私たちの日常生活でもよく使用されています。

・日用品:ボトル、たまごパック、化粧品ケース

・電気関係:フィルム、磁気テープ

・自動者関係:ワイパー

・衣類:フリース

PET樹脂は、主にボトル、容器として使用されます。特にコンビニ、スーパーで見かける「PETボトル」は大変使用率が高く、無くてはならない樹脂になります。また、PETボトルは樹脂別で見ても、最もリサイクルされている樹脂になります。

PET樹脂の成形加工時におけるポイント

PET樹脂を使った射出成形機成形においては、加熱筒設定と金型温度設定がポイントになります。

加熱筒設定で考慮すべきこと

加熱筒温度は、一般的に270〜 280℃に設定します。低い温度で充填された樹脂は途中で固化が始まり、最終充填部まで行き届かないため、ショートや湯ジワが発生します。高い温度で生産すると、加熱筒のヒーターからの熱と、圧縮によるせん断熱により、樹脂の熱分解が起こり、シルバーやヤケが発生します。加熱筒温度は、ランナー、ゲート、成形品の形状を考慮した上で、設定することがポイントです。

金型温度設定で考慮すべきこと

成形品の形状によりますが金型温度は85℃〜120℃が基本です。金型温度を上げると充填時の抵抗が減り、樹脂は流れやすくなります。バリ不良になる可能性があるので金型温度は、製品を確認しながら徐々に変更します。

よくある成形不良とその対策

PET樹脂は結晶性樹脂です。加熱筒温度、金型温度が高いので取扱い方法が難しい樹脂です。PET樹脂の特性に合わせた成形条件出しが必要になります。よく発生する不良のポイントは以下の通りです。

シルバーの原因と対策

シルバーとは、材料に含まれる空気やガスが成形品の表面上に現れ、筋状の模様になる事象です。下記の4つの方法で改善が見込めます。

1. 材料乾燥をしっかりと行う

シルバーの原因として多いのは、材料の乾燥不足です。生産前の予備乾燥(適正温度、適正時間)が不足すると、成形品全体にシルバーが発生します。予備乾燥時間の目安は6~8時間です。成形サイクルに予備乾燥が間に合わない場合は、乾燥機の内容量不足です。大きいサイズの乾燥機に交換し、成形サイクルに間に合うよう、十分に乾燥をさせる必要が出てきます。また、立ち上げパージする際、パージ球全体に無数の泡状がある場合も、材料乾燥不足が疑われます。

2. 予備乾燥温度を見直す

予備乾燥温度が適正に設定されないことで、乾燥が不十分になります。130℃~140℃の温度で乾燥しているかを確認します。設定温度に未達の場合は、乾燥機ヒーターの能力低下か、マグネットリレーの消耗による設備不良が疑われます。この場合、各所点検をし、消耗部品の交換をすることで改善が期待できます。

3. サックバック量を減らす

サックバック量が多いと、エアーを巻き込んでしまいシルバーの原因となります。1㎜単位で減らすことで改善します。部分的なシルバーが発生している場合は、サックバック量を減らしてみます。

4. 射出速度を遅くする

射出速度が速い箇所で、シルバーが発生することがあります。この場合、射出速度を遅くして、ゆっくり充填させることで改善します。また、シルバーが発生している箇所の速度を低速にして、発生箇所を過ぎたところで中速~高速に変更することも有効です。製品形状が複雑な金型において、リブやボスを越えた周辺にシルバーが発生している場合に効果が期待できます。なお、極端に低速にすると速度変化位置で、湯ジワが発生する可能性や、流動末端のショートに注意しましょう。

バリの原因と対策

バリとは、金型が合わさるパーティングライン上に、樹脂がはみ出だしてしまう事象です。下記の3つの方法で改善が見込めます。

1. 保圧を下げる

流動末端のバリに関して、保圧を下げることで改善します。注意点としては、製品のショートやひけ、重量下限があります。

2. 射出圧力を下げる(1次圧)

製品のバリ発生箇所の充填圧力を弱めることで改善します。多段制御が有効です。ただし、充填中の圧力を変更すると、流れ方が変わります。バリ発生が直った代わりに、流動末端にショートが発生したり、基準重量不足になる可能性があります。充填圧力を変更後は、しっかりと製品確認をしましょう。流動中の早い段階でバリが出てしまう箇所、スライド、中子合わせ部など、ピンポイントでバリが発生している場合は、1次圧の変更で改善します。

3. パーティングラインの当たりの確認を行う

パーティングラインは数千、数万ショットの成形により、凸凹になることがあります。定期的に金型の当たりを確認します。パーティングラインに損傷がある場合は、溶接を行い恒久的な対策で改善します。

糸引きの原因と対策

糸引きとは、冷却完了後、金型が開く時に、スプルーブッシュから溶融樹脂が糸のように伸びてしまう事象です。下記の3つの方法で改善が見込めます。

1. サックバックを増やす

サックバックを増やすことにより、糸引きが改善されます。まずは糸引きが出ている場合は、サックバックを増やして、様子を見ます。注意点としては、サックバックを増やしすぎると、空気を巻き込んでしまうので、シルバーの原因になりますので注意が必要です。糸引きが発生している時は、まずサックバック値を変更します。

2. ノズル温度を下げる

ノズル温度を下げることにより、糸引きが改善されます。サックバック値を変更しても、効果がない場合は、ノズル温度を変更します。

3. 糸引き防止スプルーブッシュに交換する

上記2つの改善でも直らない場合、糸引き防止スプルーブッシュに交換することで改善します。スプルーブッシュのみの交換で済むので、多少の初期コストはかかりますが、確実に糸引きを防止できます。

まとめ

PET樹脂は透明であり、耐熱性、耐寒性、耐溶剤性、耐薬品性が優れていることから、ボトルや容器として幅広く使用されています。PET樹脂の取扱い方法や加熱筒、金型の設定、よく発生する不良について説明しました。成形品の形状に応じて、加熱筒温度や、金型温度の設定にします。上記例のような要素を考慮し、より生産性の高い成形加工を目指しましょう。