PES樹脂は、耐熱性や、耐熱水性、寸法安定性を兼ね備えた樹脂です。
耐熱性や耐熱水性があることから、電子部品や、熱水分野の部品に使用されます。
寸法安定性は、高温時にも耐えられる特性があります。温度センサーのセルや、ヒューズケースで使用されます。高機能な樹脂な分、原料原価が高いため、より質の高い製造方法が求められます。
一般的なPES樹脂の特性は、下記の通りです。
PES樹脂は、精密成形に適していることから、コネクタや、OA機器に使用されます。
射出成形加工で使用されるPES樹脂は、下記の通りです。
電子や、耐熱水性分野、自動車業界において、下記の通りPES樹脂が導入されています。
PES樹脂の加工ポイントは、下記の3つになります。
PES樹脂は予備乾燥が必要な樹脂です。
予備乾燥は、適切な乾燥温度と乾燥時間を厳守することが重要です。
高額な樹脂なので、確実に乾燥をさせるため、除湿乾燥機や真空乾燥機を使用をおすすめします。
加熱筒温度は、一般的に 330〜380℃に設定します。
かなりの高温になりますので、パージによる飛散や、ダンゴの取り扱いには十分注意が必要です。パージカバーをしっかりと閉めてパージ作業をすると共に、
フェイスシールドや皮手袋の保護具を、必要に応じて着用します。金型温度は、成形品の形状によりますが、金型温度は120〜180℃に設定します。
PES樹脂の射出速度は、低速〜中速が適しています。
実速が十分にたつ様な適切な射出圧力が必要です。
成形品の形状に応じて設定します。
射出圧力に関しては、ゲートから流動末端までスムーズに充填するには、素早い射出速度が必要で す。
途中で失速しないように、適切な射出圧力を設定します。
保圧力に関しては、ゲートから樹脂が逆流しないように加圧して、ゲートシールをします。
ショートや、ヒケ、寸法不良が出ないように、適切な保圧力を設定します。射出圧力の1/2~1/3とするのが望ましいとされています。
PES樹脂の特性に合わせた成形条件出しが必要になります。よく発生する不良のポイントは以下の通りです。
離型不良とは、充填完了後、金型が開き成形品を取り出す際に、金型に張り付く又は突き出しピンにて変形してしまう事象です。
原因と対策方法は、下記の通りです。
射出圧力が高いと、キャビティー内がオーバーパックとなり、離型不良の原因になります。
射出圧力を下げることで、キャビティー内圧が下がり、離型時の負荷を軽減できます。射出圧力を調整する時は、射出速度が出ているかピーク圧力の波形を確認しながら設定します。また、複雑な形状の場合は、多段制御を使用することにより改善します。
突き出し(エジェクター)ピンの前進速度が速いと、成形品が割れ欠け、白化してしまう離型不良の原因となります。突き出し(エジェクター)ピンの前進速度は、低速から調整して離型の挙動を確認します。ストロークが長い場合は、多段制御が有効です。成形品と金型の隙間ができるまでは低速にして、完全に離れた位置より、中速〜高速にします。また、ガラスを含有して強化されたPES樹脂は、突き出しバランスやバリの発生により、一部分に圧力が集中すると、エジェクターピン折れが発生することがあります。成形品の外観検査でエジェクターピン部に異常がないか確認すると共に、成形中のエジェクター動作に異音がないか管理することがポイントです。
PES樹脂(スーパーエンプラ)は高機能が故に、汎用樹脂に比べて金型の消耗摩耗が強い樹脂です。
1ショット20秒の金型の場合、24時間で4000ショット以上連続成形するため、ガスの蓄積や、金型摺動部のグリース潤滑状態を、日常点検で管理することがポイントです。
また、金型の定期オーバーホールの累計ショットを決めておき、金型を良好な状態に保つことが安定した成形に繋がります。
シルバーとは、材料に含まれる空気やガスが成形品の表面上に現れ、筋状の模様になる事象です。
原因と対策は、下記の通りです。
材料の乾燥不足は、シルバーの原因になります。
また、立ち上げパージする際、パージ球全体に無数の泡状がある場合は、材料乾燥不足が原因になります。再度、予備乾燥を行います。(*上述の「原料の予備乾燥」を参照)
温度と時間を厳守して、材料の乾燥を十分行うことで改善します。特にスーパーエンプラは、原料単価が高額なため、原料準備はしっかりと行いましょう。
背圧が低く、スクリュー回転が速い場合、可塑化を行う際に、エアーを噛んでしまい射出すると、シルバーの原因になります。背圧を高くして、スクリュー回転を下げてゆっくり可塑化すると、シルバーが改善します。また、特にスーパーエンプラは、高速で計量するとせん断発熱が高まり、スクリュー圧縮部と先端において樹脂が炭化しやすくなり、練り込み異物の原因になります。シルバーだけでなく他の成形不良にも影響を及ぼしますので、適切な計量設定がポイントです。
加熱筒温度が高い場合、樹脂粘度が下がり樹脂分解が起こり、シルバーの原因になります。
加熱筒温度を低くすることで、樹脂粘度が上がり、樹脂の分解を低減させ改善します。
成形する時は、メーカー推奨温度の一番低い温度から成形可能か試していきます。
注意点としては、設定温度を低くするとキャビティー内の流動性が下がります。
流動末端のショートに注意が必要です。
ガスショートとは、溶融樹脂がキャビティー内に充填される時に、キャビティー内に残存している空気が圧縮・燃焼し、成形品にショートのようなカケできる事象です。
最終充填部や、ガス抜けの悪い部分に発生します。
原因と対策方法は、下記の通りです。
金型の最終充填部のガスベンドにガスが蓄積していくと、ガスショートの原因になります。日常点検において、ヤケ不良が発生する前に、メンテナンスすることで改善します。
ガスベントの定期メンテナンスをしていない場合は、金型オーバーホールが有効です。特にスーパーエンプラは、発生するガスが強かったり、ガスの量が多かったりするので、メンテナンスを怠らないよう管理することがポイントです。
射出速度が速いと、ガスが排出される前に充填圧縮されてしまい、ガスショートの原因になります。射出速度を下げることで、キャビティー内の流動性が下がり、ガスが逃げる余裕が生まれます。また、複雑な形状の場合は、多段制御を使用することにより改善します。
加熱筒温度が高いと、樹脂粘度が下がり、ガスが排出される前に充填圧縮されてしまい、ガスショートの原因になります。
必要以上の高温設定は不要です。充填時に失速しない程度の流動があれば十分です。
樹脂温度を下げることで、樹脂粘度が上がり、流れにくくなります。
流れにくくなった分、ガスが抜けるまでの余裕がうまれ、ガス抜けが改善します。
また、原料ロットのバラツキに影響を受けることがありますので、原料ロットの変更点はしっかりと管理しましょう。
PES樹脂は、耐熱性や、耐熱水性、寸法安定性を兼ね備えた樹脂です。また高流動性で寸法安定性が良いことから、薄肉部品や精密部品の需要は高いです。
PES樹脂の取扱い方法や成形加工時のポイント、よく発生する不良について説明しました。原料の予備乾燥や、加熱筒温度、射出圧力・保圧力の設定は、生産前にしっかりと確認しましょう。
また、金型のメンテナンスを生産前や定期的に行うことで、安定した生産が可能です。
上記を考慮し、より生産性の高い成形加工を目指しましょう。