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逐次データ同化の射出成形シミュレーションへの応用

逐次データ同化の射出成形シミュレーションへの応用

逐次データ同化の射出成形シミュレーションへの応用

逐次データ同化とは?

逐次データ同化(Sequential Data Assimilation)は、観測データをリアルタイムで統合し、システムの状態を逐次的に更新する手法です。特に、物理シミュレーションや気象予測などの分野で広く活用されており、シミュレーションの精度向上に貢献します。

状態空間モデル

逐次データ同化の基盤となるのが、状態空間モデル(State-Space Model)です。状態空間モデルは、システムの状態を次のように表現します:

ここで、Xtは時刻 におけるシステムの状態ベクトル、f(・)は状態遷移写像、Wtはプロセスノイズ、ytは観測データ、h(・)は観測写像、Vtは観測ノイズを表します。

ベイジアンフィルタリングの更新式

逐次データ同化においては、ベイジアンフィルタリングを用いた状態推定が行われます。これは観測データが与えられた条件での状態ベクトルの事後分布を推定することに相当します。状態区間モデルがマルコフ過程であることと、ベイズの定理より、以下に示す更新式が得られます。

この更新により、新しい観測データが得られるたびに状態推定が改善されます。

樹脂流動の運動方程式

射出成形プロセスにおける樹脂の流動は、非ニュートン流体の運動方程式に従います。これは質量、運動量、エネルギーの保存則から成る非線形偏微分方程式で与えられます。

また、連続の式も考慮する必要があります:ここで、ρは樹脂の密度、uは流速ベクトル、pは圧力、cpは比熱容量、Tは温度、kは熱伝導率、σは応力テンソルを表します。離散化した運動方程式を状態方程式とみなすと、密度、圧力、流速、温度を状態ベクトルとして扱うことができます。ベイジアンフィルタリングを用いて、これらの状態ベクトルに観測データをフィードバックすることで逐次データ同化による状態推定を実行することができます。

射出成形シミュレーションへの逐次データ同化の応用

射出成形シミュレーションに逐次データ同化を適用することで、以下の利点が得られます。

  1. 精度向上: センサーから取得したリアルタイムデータを統合することで、シミュレーション結果を逐次修正し、予測の精度を向上させます。
  2. リアルタイム最適化: 逐次データ同化により、成形プロセス中の状態変化を迅速に検出し、プロセス制御に活用できます。
  3. 不確実性の低減: パラメータの不確実性を考慮しながら、より信頼性の高い解析結果を得ることができます。

逐次データ同化を活用することで、射出成形シミュレーションの現場適用がより現実的になり、成形品質の向上や生産効率の最適化につながる可能性があります。

射出成形シミュレーションへの逐次データ同化の適用例

逐次データ同化を実際に射出成形シミュレーションに適用するために、ダンベル試験片を使用した実験を行いました。試験片金型の上流と下流にぞれぞれ圧力センサを1点ずつ配置した様子を図1に示します。図2と3の青色の線は圧力センサによる金型内樹脂圧力の測定値です。これに対して、橙色の線は射出成形シミュレーションの結果です。これらを比較すると、シミュレーション結果と実測値との間には乖離があることが確認できます。逐次データ同化によってシミュレーション結果を補正したものが緑色の線です。これらを比較すると、逐次データ同化を行うことで射出成形シミュレーションの結果を、より実測に近い値に補正できていることが確認できます。

図1. 金型内の圧力センサ配置

図2. 上流側での逐次データ同化結果(青:観測データ、橙:射出成形シミレーション、緑:逐次データ同化)

図3. 下流側での逐次データ同化結果(青:観測データ、橙:射出成形シミレーション、緑:逐次データ同化)

今後の展望

ここでは、逐次データ同化を用いることで射出成形シミュレーションの実測値に対する推定精度を向上させた事例を紹介しました。この技術を発展させることで、将来的には実物の射出成形を行うことなく品質の作り込みができるようになることが期待されます。その結果、成形トライ時に発生する廃棄ロスの削減や金型製作のリードタイム短縮を実現することが可能となります。

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