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工具摩耗状態の定量化

工具摩耗状態の定量化

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背景・課題

工作機械で切削加工を続けていくと、工具の摩耗は避けられない問題です。工具が摩耗すると、切れ味が悪化し、製品の寸法精度が低下するため、生産効率の低下や品質の問題が生じます。このため、生産現場における工具の適切な管理は極めて重要です。

従来の工具管理方法である Time-Based Maintanace(TBM) は、所定の加工時間や加工回数に達した時点で工具を交換するというものです。しかし、TBMでは工具の摩耗状態を常時監視していないため、実際の摩耗状態を正確に把握することが難しく、結果として寸法精度が不十分な製品が生産されるリスクがあります。そのため、工具の本来の寿命に達する前に交換することが一般的です。一方、量産品の切削加工では、リードタイムの短縮が直接的な利益向上につながるため、工具交換の回数を減らすことが求められています。MAZINはこのようなニーズに対応するため、切削工具の状態を推定する技術開発を行っています。

実験方法

工具摩耗の進行により切削工具の切れ味が低下すると、それに伴って切削抵抗が増加します。工作機械の主軸モータは、回転数を一定に保つように制御されており、切削抵抗が増加すると主軸モータの仕事量が増加します。この原理を利用して、主軸モータの電流データをモニタリングすることで、工具の摩耗状態を間接的に推定することが可能です。この方法は、非接触かつリアルタイムに摩耗状態を把握できる利点があります。

図1. サーボモータ

実験では、工作機械の主軸モータを駆動するインバータにクランプ式電流センサを取り付け、加工時の電流データを収集しました。新品・未使用の切削工具2種類を使用し、丸棒の端面切削を繰り返し行い、工具が欠損するまで実験を行いました。取得されたデータを使って、加工回数ごとに電流データから特徴量を抽出し、工具の摩耗量を推定しました。

結果

以下の図2は、この一連の実験とデータ解析を行った結果を示しています。同一種類の工具であっても、使用した工具( N1と N2)によって推定される摩耗進行の速度に差がありました。

図2. 加工回数に対する推定摩耗値の推移

図中の橙線(N1)と青線(N2)はそれぞれ、1回目と2回目の実験で使用した工具の加工回数に対する推定摩耗量の推移を表しています。工具N1とN2では、同一種類の工具であるにも関わらず、N2の方が推定摩耗幅の進行が早いことが確認されました。

図3. 60回加工後の工具状態

60回目の加工時点での工具の状態をマイクロスコープで観察した結果、工具N2の損傷が工具N1に対して激しいことが確認できました。この結果は、電流データから推定した工具の摩耗量が実際の摩耗幅を反映していることを示唆しています。

さらに4つの切削工具に対する電流データから推定した工具の摩耗量と、マイクロスコープで撮影した画像から求めた工具の摩耗幅を比較したものが図4です。

図4. 計測摩耗量と推定摩耗値の相関関係

電流データの測定誤差や画像から摩耗幅を求める際の誤差の影響により多少のばらつきはあるものの、両者の間には概ね正の相関が見られました。

計測摩耗量が600μmを超えたあたりから相関性が見られなくなるのは、測定誤差の影響であり、これは工具の一部が欠損してしまい、画像から摩耗幅を正確に測定できなかったことによるものです。

まとめ

工具摩耗は製品の寸法精度に直接影響を及ぼします。加工方法の分類や対象製品によって寸法精度の許容範囲は異なるため、工具の摩耗状態を正確に把握することは重要です。本研究で開発技術を使用することで、推定摩耗量に基づいて最適なタイミングで工具交換を行うことが可能となります。この管理方法はCondition-Based Maintenance(CBM)と呼ばれ、従来のTBMに代わるものです。CBMの導入により、工具交換に要するリードタイムを短縮し、量産切削加工の生産性向上を実現することが期待されます。さらに、CBMは工具の未使用寿命を無駄にすることなく、より精度高く工具の状態を管理することができます。 

今後は、この技術をさらに発展させ、より複雑な加工条件や多様な工具種類に適用可能なシステムの開発を進めていく予定です。

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