射出成形の不良種別の1つにショートショットがあります。この現象は、金型の末端部に樹脂が到達する前に固化してしまい、製品の形状を正確に転写できない成形不良を指します。薄肉や小型の成形品では、ショートショットが特に発生されやすいとされています。
ショートショットの検知方法としては、金型内に内圧センサを設置し、これらのセンサからのデータを分析することで、樹脂が金型内のどの位置まで到達しているかを監視する方法が一般的です。しかし、この方法は金型の改造や内圧センサの購入が必要となり、製品コストの増大につながります。このため、コストを抑えながら効率的にショートショットを検知できる新たな手法に対するニーズが高まっています。
この背景を踏まえ、MAZINは、金型内圧センサを使用せずにショートショットを検知する実験を行いました。
本研究では、金型改造を必要としない新たなアプローチとして、外付け可能なクランプ式電流センサを採用しました。図3に示されるように、このセンサを射出成形機のサーボアンプに取り付け、成形のショットごとに電流データを収集しました。
図3. 電流センサを用いた不良検知
実験では、まず良品の成形条件で33ショット分のデータを収集しました。その後、成形条件を意図的に変更し、ショートショットが発生する6つの異なる条件下で、それぞれ10ショットずつ、合計60ショット分のデータを収集しました。
これにより、良品の成形条件とショートショットが発生する条件の両方における合計93ショット分の電流データを収集しました。
実験から得られた時系列データを図5に示します。
この図において、オレンジの線はPlasticization Motorの電流を表しており、これはスクリューを回転させるためのモーターの電流です。
一方、青の線はInjection Motorの電流を示しており、これはスクリューを前進させる動作やピストンを押し出す動作を行うモーターの電流です。
収集した電流データから特徴量を抽出し、次元削減を行い、33ショット分の良品データ群の重心を求めました。次元削減した特徴量と良品データ群の重心からの距離を、ショットごとにプロットしたものが以下の図6です。青点が良品を、それ以外は各成形条件におけるショートショットを表しています。この図から、ショートショットが発生すると良品データ群の重心からの距離が相対的に大きくなる傾向が確認されました。図中に示された点線位置に閾値を設定することで、この閾値を上回るショットをショートショットとして判定することが可能です。
本研究によって開発されたサーボモータの電流データを解析する手法は、保圧工程の情報を使用できないため、充填と計量工程に関連する成形不良の検知に限定されます。内圧センサと比較すると、抽出できる情報は限定されますが、独自の特徴量を抽出することによりショートショットの検知が可能になることが示されました。クランプ式電流センサを射出成形機のサーボアンプに設置する構成でショートショット検知に初めて成功しました。
この手法の最大の利点は、金型を改造することなく、容易にショートショット検知を開始できることです。これにより、製造業者はコストを削減しつつ、効率的かつ迅速に品質管理を行うことが可能になります。
今後はより幅広い成形不良の検知に対応する新しい技術開発へ取り組んでまいります。